小川歯科医院メールマガジン「歯医者のホンネ」
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 ◇◆  歯医者のホンネ  創刊準備号  ◆◇  2008.7.2
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はじめまして。神奈川県平塚市で歯科医院を開業している小川と申します。
このたびメールマガジンを発行することとなりました。
  歯科医師が日常の診療の中で考えていること、
    いま歯科医療の世界でおこっていること、
      患者さんにとっての「良い歯科治療」とは何かということを
語っていこうと思っています。
小川歯科医院のホームページ( http://haisya.web.fc2.com/ )では
少々書き辛い内容についてもこちらでお話しできればいいかなと・・・
患者さんからはなかなか見えない「歯医者の本音」の部分を
感じ取ってもらえるようなメールマガジンにしていきます。
    よろしくお願いいたします。
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■ プロローグ ■  多すぎる歯科医院、本末転倒の自費治療

何故私がメールマガジンを発行しようと考えたのかというと、
いま現在、歯科医療と歯科医院をめぐる環境が大きく変化していることを
多くの方々に知っていただきたいと思ったからです。

あなたがお住まいの町に、最近新しい歯科医院はできていませんか。
テレビの報道番組では、歯科医師のワーキングプア問題や自殺が
特集される一方で、全国の名医を紹介するバラエティ番組では
レーザーやイオン殺菌やインプラントや審美歯科など、保険外の治療を
最先端の歯科治療としてさも優れているかのように紹介しています。
そしてコンビニの1.5倍とも言われる歯科医院の数にもかかわらず
新規開業の歯科医院はどんどん増える一方です。
かたや都心部での新規開業歯科医院は、周辺に歯科医院が乱立し、
開業後3年以内にそのうちの5割が閉院しているという話も耳にします。
新しく開業した歯科医院へ行くと、濃厚診療となり窓口での支払いが多く、
インプラントなどの自費診療をそれとなくすすめられていませんか。
減ってきた患者さんをなんとかして集めたいその一心で、
夜遅くまで診療して、たくさんのスタッフを雇って、最新の機械を使って、
そこにかかる人件費や設備投資は、どうやって回収されているのでしょう。
そう、あなた方患者さんの支払う治療費です。
従業員の給料、医療機器のリース料、テナント料、技工料、材料費・・・
お金がかかる歯科医院は、患者さんからもお金を多くもらわなければ
やっていけません。
そのためには一人当たりの収入が少ない保険診療だけでは
足りないのです。
なんという悪循環でしょう。
患者さんに来てほしいがために、患者さんに負担を強いる。
なにか大きなゆがみが生じているような気がしませんか。

こういう時代にこそ歯科医師は保険診療の充実を考えなければいけません。
本来保険診療は、日本の国民全てが安心して受けられる治療でなければ
ならないはずです。日本全国どこへ行っても同じ治療費で、同じ治療が
受けられるという、安価にして必要十分な医療であるべきです。
医療の世界に、競争や格差や市場原理は必要ないのです。
それをインプラントなどの保険外診療こそ優れた治療で、
保険診療は質の悪い治療だとする一部の歯科医の扇動で、
保険診療が軽視され謗られているのが私はとても悲しいのです。
保険診療の範囲で出来得る限りの治療を勉強し努力することこそが、
患者さんのためを思い地域医療を支える歯科医師の義務だと思っています。
安直に歯を抜いてインプラントを立てる歯科医師を、私は軽蔑します。
歯科医には、その前に患者さんのためにもっとできることがあるはずです。

確かに私は、名医ではないかもしれません。
最先端の治療はしないし、他の人より優れた技術もないかもしれません。
でも、患者さんのことを真剣に考える気持ちは、誰にも負けません。
先生なんて呼び方は気恥ずかしいのでしないでください。
私は「はいしゃさん」と呼ばれたい。
患者さんに安心と笑顔を差し上げたい。
それだけが望みなのです。
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 ◇◆  歯医者のホンネ  Vol.1  ◆◇  2008.7.14
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○ 歯医者の小ネタ ○  光重合レジン
浅い小さなむし歯の修復法として頻繁に使われる充填用有機複合材料。
保険診療適用で、歯質との色調も合わせやすく、磨耗係数も天然歯に近い。
接着剤やレジン自身の辺縁強度の改良によって、最小限の歯質切削量で
長期間修復物を維持できる優秀な治療法として確立された感がある。
(ただし神経が生きている歯では歯髄の保護が必要となる)
473nm前後の波長の光を照射することにより硬化が開始する。
ハロゲン球光源の硬化用照射器は青い光を発するので、「レーザーですか?」
ときかれるが、全く違うもの。通常は硬化に20秒程度の照射を要する。
他にLED光源のものや、プラズマアーク光を利用した高出力照射器もあり、
短時間で硬化完了させるが(プラズマアークタイプは約5秒)、そういう
場合はレジンの硬化反応熱が高く、神経の生きている歯に麻酔無しで使用
すると施術時に痛みが出ることがある。収縮率も大きくなるので、充填後に
脱落しやすくなる可能性もある。
歯と歯の間にあるむし歯(C2)1本を光重合レジン即時充填修復した
場合の保険点数は、120点(形成)+148点(充填)+28点(材料)
=合計296点で、窓口3割負担ならば900円程度である。(1点10円)

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■ そのインプラント、ちょっと待って! ■

(1)インプラントって安全ですか?

 このメールマガジンでは今後インプラント治療の問題点について、
一般の方々にも分かりやすい言葉で述べていきたいと思っています。
 最初に、何故私がインプラント治療をしない歯医者になったのか、
その理由をご説明いたします。

 私は歯のインプラント治療に反対はしていますが、全面的に否定している
わけではありません。失った歯の機能を取り戻す治療=補綴(ほてつ)治療の
一選択肢として、ケースによってはブリッジや入れ歯と比較検討することも
あります。例えば歯並びの中ほどに一本だけ抜けてしまった(もしくは
抜かなければならなくなった)歯を補綴する場合、そのすき間の前後が
むし歯のない健康な歯であったなら、ブリッジを作ることに抵抗を感じると
思います。最終的には、その患者さんのためにどちらが良いのかという
長期的展望に基づいたバランス感覚によって決定されるべきでしょう。
基本的に、一歯科医師の信条によって患者さん自身の選択肢が狭まれる事態は
あってはならないと思います。当院でも、インプラントの問題点について
十分説明差し上げたうえで患者さんがそれでもインプラント治療を希望される
ならば、他院での治療を妨げるものではありません。
 しかし、患者さんも、歯科医師も、忘れてはいけないことがあります。
それは、「インプラントは自分の歯とは全く異なる人工物」で、
「一度入れたら継続的なケアが不可欠」ということです。
ほったらかしではダメなのです。
・・・なんだ、当たり前じゃないか。入れ歯やブリッジだって人工物で、
毎日の歯みがきや定期検診は必要だろ?
だったらインプラントも他の治療も変わらないじゃないか・・・
 そうお考えですか。実際、インプラントのもつ性質についてよく考えず、
従来の歯科治療と同じで、手入れやメンテナンスも同じだろうと、
安直に施術する歯科医師や、治療を希望する患者さんが数多くいるのです。
 はっきり言いましょう。インプラントを立てたら、その患者さんは
それまでとは比較にならないほど「必死」にお口の健康管理に
取り組まなければなりません。それはインプラントという治療を選択した
患者さん自身の義務です。また、インプラントを施術した歯科医師の責任でも
あります。一生をかけて、そのインプラントを「もたせる」覚悟があって
施術したんですよね?よもや「何年かしてダメになったらまたインプラントを
やり直すか、ブリッジや入れ歯にすればいいさ」なんて思っていませんよね?
その患者さんは、一生あなたをアテにしていいんですよね?
 まさか、インプラントを立てたらもうその人の治療は終わり、なんて
思っていたりして・・・いませんよね。

 当院でも最近は月に1〜2人、お口の中にインプラントが入っている
患者さんがお見えになります。そういう方は、昔うちにかかっていたけれど
近所に新しい歯科医院ができたのでそちらで治療をして、その後またうちへ
戻ってきた患者さんか、遠方(主に東京や横浜などの都市部)から
うちの近所へ引っ越してこられた患者さんがほとんどです。
引越しされてきた方はともかく、他院からうちへ転医される方の理由として
多いのは、「前の歯医者は治療費が高いから」です。
 さて、それらのインプラントはうちで施術したものではなく、当然ですが
インプラントを立てた歯科医院で「継続的なケア」を受けていない状態です。
そして、その患者さんたちのインプラントのまわりには、100パーセント
「歯肉の炎症」が存在します。100パーセントです。
動いたりしていなくても(もっとも複数のインプラント同士でつなげて
いるので単独では判別しがたいものもありますが)、歯ぐきが赤く
なっていて探針で軽く触っただけで簡単に出血したりします。その人の歯の
磨き方や手入れが悪いわけではありません。インプラントを入れている方の
歯科的な知識や自らの健康への関心は高い場合が多く、インプラント以外の
ご自分の歯には歯石の沈着もなく、非常にきれいに磨かれていることが
多いのです。にもかかわらず、インプラントの周囲には炎症が起きています。
 その内のある方に、この炎症の起きているインプラントに痛みはないのか
たずねると、全く痛みは感じないし普通に食事もかめると言います。
ただ、歯みがきをする時に以前から出血があって、何度かそのインプラントを
施術した歯科医に質問したそうですが、いつも「よく磨いて清潔にしていて
ください」と言われるだけで、特に処置はせず、レントゲン写真を撮影して
経過を確かめることもなかったそうです。
 そう、「インプラント周囲炎」の初期段階には痛みがほとんどないのです。
痛みや腫れを感じるようになった時はすでに遅く、炎症はあごの骨に
ひろがってしまっているのです。初期段階の「インプラント周囲炎」は
慢性的に存在していて、患者さんは常にその「痛みのない炎症」に注意を
払いながら生活しなければなりません。
 そういう「出血はするが痛みのない」インプラントが立っている患者さんに、
私は何をしてあげられるのか・・・実は何もできません。やはり「よく磨いて
清潔にしていてください」とアドバイスするしかありません。
できるだけこまめにメンテナンスにお呼びして、状態が急激に悪化することの
ないように経過観察しながら、ひたすら見守ることしか出来ません。
それが私には悔しいのです。
そういう患者さんを作り出してしまうインプラントと、
そんな治療を安易にしてしまう歯科医師と、
すでに立ってしまっているインプラントに対して何もできない自分。
悔しくてたまりません。
 数十万円、いや百万円以上の高額の治療費を払い、良くなると信じて
インプラント治療を受けた患者さんが、出血を気にして訴えているのに
「よく磨いていれば大丈夫」と言い切ってしまう歯科医師の緊張感の無さは
何なのでしょう。「転医しないでうちに続けてきていればメンテナンスして
あげるのに・・・」って思いますか?もし悪くなったら転医した患者さんの
責任なのでしょうか?絶対にそんなことはありません。歯科医師として責任を
取るということを、その人はどう考えてインプラントを患者さんにすすめ、
手術したのでしょう。

 私がインプラント手術をしない理由、それは「インプラントを正常な状態に
保つ自信がないから」です。技術的な理由ではありません。
インプラントというもの自体に、避けられないリスクがあって、
どんなに注意してケアしてもいつか必ず大きなトラブルが起きることが
目に見えているからです。そんなリスキーなものを大切な患者さんのお口に
入れることなど、私にはできません。
 出血だけでは済まず、グラグラに動いていたり、腫れてあごの骨が炎症を
起こしているインプラントも、今までに何本も見ました。顎骨の感染症なので
強い抗生物質も必要になります。痛みもあるでしょう。
しかし、どんなに動いていて痛みや腫れがあっても、
「このインプラントをとってくれ」と言う患者さんには
一人もお会いしたことがありません。一本あたり数十万円もお金をかけて
立てたインプラントを抜きたいなんて思う人がいるわけありません。
それでもそんな状態になってしまったインプラントは、
炎症をおこしたあごの骨ごと取り除く以外にはないのです。
こんな残酷な話はありません。もしインプラントを施術している歯科医院で
「失敗」が起きた時、その歯科医師は患者さんに何と説明をするのでしょう。
「残念ですね」?「今度は入れ歯を作りましょうね」?
それとも「もう一度インプラントを立てますね」ですか?・・・
 現在、インプラントの「成功率」は10年で90%と言われています。
この数字を見て、インプラントは安全だと思いますか。
逆に言えば10人に1人は「失敗」するのです。
何十万円もかけたものが失敗します。しかもその身体的ダメージの大きさは、
ブリッジや入れ歯がダメになった時の比ではありません。
患者さんのショックも非常に大きいでしょう。
だからインプラントを施術する歯科医師の方には強くお願いしたいのです。
お金を支払う患者さんの必死な気持ちを分かってあげてください。
良い治療を受けたいと願う患者さんを裏切らないでください。
「成功」といわれる90%の中に含まれている「出血はするけど痛みがない」
方の話もよく聞いてあげてください。
10年もてば満足だろうとは考えないでください。
もう一度手術しましょうなんて簡単に言わないでください。
再治療になってもまたお金を出してくれるだろうとは思わないでください。
インプラントとはどういう手術でどういうメリットとデメリットがあるか、
患者さんによく説明した上で、考える時間を与えてください。
決して早急に施術することのないようにお願いします。
それが歯科医師のせめてもの良心だと思います。
患者さんも、すすめられたから、新しい治療だから、良さそうだから、
入れ歯を入れなくて済むから・・・と、
簡単にインプラントを選ばないでほしいのです。
じっくり考えてもいいはずです。
疑問や不安を感じたら、何度でも納得するまで歯科医師に相談してください。

 成功率の話が出ましたが、患者さんのライフサイクルを考えた場合、
インプラントにはまだいろいろな問題点があります。
次回は「インプラントは長持ちしますか?」と題してお話ししたいと思います。

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★★★ 日々徒然 ★★★

先日、「平成20年度神奈川県歯の衛生に関する図画・ポスター・及び
標語表彰に係る中地区審査会」に審査委員として出席しました。
平塚市・大磯町・二宮町・秦野市・伊勢原市の小・中学校から応募があった
図画ポスター415点・標語366点から、神奈川県の審査会へ推薦する
作品を4点ずつ選ぶのですが、この3年続けて参加させていただいて
思うことは、標語にしてもポスターにしても、むし歯の状態を描いた作品は
非常に少なくなり、「いつまでもきれいな歯」とか「しっかり磨こう」とか
「一生自分の歯で」のような、いま現在むし歯などの問題が全く無くて、
口腔衛生意識も極めて高い子ども達の姿が浮かんでくるということです。
私が小学生の頃ならばむし歯を痛がる子どもは珍しくありませんでしたが、
現代の小学生たちのむし歯はこの十数年間で劇的に減少しました。
平成19年度の平塚市学校保健統計調査では、これまでに1本でもむし歯に
なったことのある児童の割合は、小学校全体では26.1%でした。
文部科学省の平成19年度学校保健統計調査の小学生う蝕率の
全国平均は65.47%なので、平塚市の小学生の口腔衛生意識は
非常に高いといえるでしょう。残念ながら中学校の統計では急激に悪化して
全国平均並みになってしまうのですが、小児期より自分の口腔衛生に
関心を持って生活していくことの大切さを、子ども達がポスターを通じて
感じてもらえるならば、学校歯科保健に携わる者として喜ばしい限りです。

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[歯医者のホンネ〜小川歯科医院マガジン]発行日: 2008/7/28
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■ そのインプラント、ちょっと待って! ■

(2)インプラントは長持ちしますか?その1

 一本数十万円という高いお金を払ってお口に入れたインプラント。
出来るだけ長く・・・できれば一生使いたいと思うのは、患者さんに
してみれば当然の気持ちでしょう。概ね自費治療を選ぶ患者さんは、
作ったものが長持ちするかどうかを気になさる方が多いです。
歯科医師側は補綴物の機能性や質感に対して自費の治療費を払って
いただくと考えている場合が多いのですが、自費治療において一番
患者さんから評価される点というのは実際には耐用年数であることが
ほとんどなのです。見た目が美しかったりちゃんと噛めることなどは
「当然」なのですから、あとは保険診療の数十倍の金額を支払った分だけ、
何倍も長持ちしてほしい(出来れば一生その場所は治療しなくていいように)
と考えるのは、患者さんの立場からすればごくあたりまえのことでしょう。
 前回の記事で、「インプラントの成功率は10年で90%」という数字を
出しました。これはインプラント施術を手掛ける歯科医師がよく引き合いに
出す数字なのですが、あまり正確ではありません。何故なら、現在主流と
なっているチタン製ルートタイプのインプラントが一般歯科医に普及してから
まだ10年も経過していないからです。しかもインプラントの材質や形状は
世界中のメーカーから独自のものが発売されており、その種類は100種を
こえるそうなので、大雑把に「インプラント」とまとめて統計を取った場合、
どの部位に打ったどの種類のインプラントなのかはわかりません。
また、新しい形状の製品や、表面加工の方法、チタン以外の材質のもの、
さらには即時加重インプラントのような新アイデアのものが次々に発売される
ため、学会や研究機関、メーカーから発表される成功率データには旧式の
インプラントと新しいタイプのものが混在してしまい、総論としての
インプラントの耐用年数や安全性を語るのは不可能な状況です。
ですから、10年で90%という数字も、インプラント歯科医師が自院で
やった施術例から推測で言ったり、材料商などから聞いた数字を鵜呑みにして
言っているにすぎません。
 ここで出所の明らかな統計の数字をいくつか挙げましょう。
まずはインプラントメーカーが調べた統計を2つ。ITIとアストラという、
世界的な2大インプラントメーカーが発表したものです。
 ITI(2004年発表):単独インプラント95.6%、
    インプラントどうしのブリッジ96.1% 経過観察期間3.5年
 アストラ(2001年発表):生存率95.9% 平均観察期間2.8年
いずれもインプラントを販売する会社が出したデータという点を差し引いて
考えるとしても、約3年で95%ぐらいの生存率ということになります。
続いて学術論文からデータを挙げましょう。
 単独インプラント:Schelle(1999) 5年で95.9% 
          Haas(1996) 8年で90.3% 
          Scholandr(1999) 10年で98.5%
   <10年で生存率が急上昇していますが、統計の取り方によって
     こういう数字は簡単に変わるという例と言えるでしょう
 インプラントブリッジ:Olson(1995) 5年で92% 
            Lekholm(1999) 10年で86.5%
 さて、インプラントではなく従来の治療法、冠やブリッジでは
どのくらいの耐用年数があるのか、学術論文からデータを探してみました。
 単独冠:Leempoel(1986) 10年で93% 
     Valderhang(1997) 25年で65%
 ブリッジ:Kerschbaum(1993) 8年で90.6% 
      Lindquist(1995) 20年で65%
    (いずれのデータも日本歯科補綴学会誌2000より引用)
 どうですか。こうして比べてみると、インプラントも従来の冠や
ブリッジも、使用できる年数にはほとんど違いが無いことに気付くでしょう。
決してインプラントだけの耐久性が優れているわけではないのです。
また、もし冠やブリッジなどの補綴物がはずれたり壊れたりした場合でも、
とれた冠やブリッジを調整して再び付け直したり、土台となる歯を治療する
ことで再度ブリッジを作ることが可能(しかも保険診療でできます)である
ケースが多いのに対して、インプラントの上部構造が壊れたり、
インプラント自体がぐらぐら動いてしまった場合は、ほとんど再利用は
出来ません。一部の形状のインプラントでは上部構造の再製作が可能ですが、
今ある骨の中のインプラントをそのままにして上の部分だけ
作り直しましょうと言う歯科医師は恐らくいないでしょう。
 もし現在お口の中にインプラントが入っている方は、その手術をした
歯科医師に「このインプラントの上の冠やブリッジがもし外れたり壊れたり
したらそこだけ作り直してもらえますか」とたずねてみましょう。
返答のパターンは2つあると思います。1つは、「インプラントの冠や
ブリッジははずれません」(インプラントの骨内部分と強固に一体化して
いるので壊れない限りはずれないが壊れた時は全部撤去する手術を
しなければならない)。もう1つは、「うちは○○年保証ですから
再手術できますよ」(全て除去してもう一度インプラントを立てて
上部構造も新しく作りなおす)。どちらにしてもまた「手術」です。
従来の冠やブリッジと耐用年数にほとんど差が無いのに、その結末には
非常に大きな差があります。インプラント医は、「インプラントをする
ことで他の健康な歯を傷つけないのがメリット」とよく言いますけれど、
再手術をすることのほうが余程患者さんには外科的侵襲が大きく、
負担もバカにならないと私は思うのですが・・・
 それでも、インプラントを一度入れれば20年、いやそれ以上もつんだと
主張する歯科医師もいます。最近の形状&材質の製品でのデータは無いにも
関わらず、そう言い切る自信がどこからくるものか私にはわかりませんが、
実際に保証期間を設けているインプラント医は10年間保証としている
ところが多いことを見ると、実のところ10年経ったら10人に1人ぐらいの
失敗は有り得る事なので仕方が無い、失敗例10%の保証は
残り90%からの儲けで賄おうと考えているのでしょう。それ以上先の
ことはわからない、どちらにしても再手術か、患者さんに諦めてもらって
入れ歯などにしてもらえばいいと。そういえば、とあるインプラント医が
こう話していました。「たとえ10年間でも入れ歯やブリッジ無しに
噛めるようになったんだから、一本40万円でも患者さんは安いと思って
くれるだろう。もし40万円の歯を10年使えば、一年あたり4万円、
月になおせば3333円、そう考えればインプラントなんて安い買い物
じゃないか」と。よく生命保険会社が使う詭弁と同じ理屈なのですが、
先に挙げたとおり従来の冠であっても10年で93%が使えていますから、
同じ理屈で言えば保険3割負担で総治療費約8000円の前装鋳造冠を
作って10年使った場合は、一年あたり800円、月になおせば
67円になりますね。あらまあ、缶コーヒーより安いですね。
・・・すみません、ちょっと意地悪な言い方をしてしまいました。
保証の問題もありますから、金額の話になるとインプラント医は非常に
神経質になります。自由診療(保険外診療)というものは実のところ
その医師の「言い値」ですから、その根拠について施術される患者さんは
医師にしつこいくらいにたずねてもいいと思います。保険診療と
保険外診療の差は「質の問題」と言っている医師ならば、
なおさらその「質」の結果生じる金額差について誠意を持って患者さんが
納得するまで説明するべきです。そこで気を悪くしたり
態度が冷たくなったりする医師は、きっと他に患者さんに隠している事情が
何かあるのでしょう。
 数字上の耐用年数に、インプラントと従来の治療法との間の差異は
ほとんどなく、10年を超えるインプラントの耐久性についてはまだよく
わからないということがご理解いただけたでしょうか。
では、お口の中に立てたインプラントが仮に20年、30年・・・と
使えた場合、その治療は成功したと言えるのでしょうか。
使えているのだから問題ない・・・と簡単には言えない理由が、
実はあるのです。次回はそのお話しをしましょう。

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★★★ 日々徒然 ★★★

先日、平塚市休日急患歯科診療所の当番医を担当しました。
歯周病の急性発作(歯ぐきの腫れ)で来られた方が多かったのですが、
仮歯が取れたということでいらした方も数人いました。
いずれも仮歯の状態で既に半年以上経過されており、一部がひび割れて
壊れている状態でしたが、どなたも歯科医院に通院して治療を続ける
予定はなく、その仮歯のままで過ごしたいということを
おっしゃっていました。
仮歯であっても前歯に白い冠が入っているわけですから、それで満足、
わざわざ型を取っていい歯を入れなくてもいいや、と思われる方は
結構いらっしゃいます。しかし、仮歯はどんなに見た目が良くても
所詮は「仮の歯」です。正確なかみ合わせのことまでは考えて
作られていないので、すぐにはずれたり壊れたり、土台の歯の根がぐらぐら
動いてきたりします。ひどい場合は、折角かぶせる準備をした歯であっても、
根が割れたり歯周病がひどくなったりして抜かなくては
ならなくなることもあります。ですから、仮歯で見た目が良いからと
そのまま過ごすのではなく、出来るだけ早く歯科医院へおかかりになって
ちゃんとした冠やブリッジを入れて治療を完了させることをおすすめします。
とは言え前歯であれば、たとえ保険診療・窓口3割負担で前装鋳造冠を
かぶせたとしても、型取りとセットを合わせて一本あたり8000円ほど
かかります。3本分のブリッジともなれば、合計金額は2万円をこえます。
これは一般的な生活感覚からすれば決して安い金額ではありません。
保険診療は一番安価で安全な治療であるべきだと私は主張していますが、
窓口負担3割時代となり必要な治療でも安い治療費で受けられるとは
限らなくなってしまったのは実に憂慮すべき事態です。小泉純一郎元首相が
「聖域なき構造改革」などと称して、医療や福祉、教育などの国家の根幹を
成すべき基本的な生活権の部分にまで経費削減・競争原理導入を進めた
結果が、今の日本の姿です。医療の現場の崩壊が叫ばれる今であっても、
福田首相は「骨太の改革2008」で尚も社会保障費2200億円削減を
継続する方針を崩していません。せめて医療・福祉・教育に関しては、
出来る限り小さな負担で誰でも恩恵を受けられる社会にしていただきたいと
切に願います。

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○ 歯医者の小ネタ ○ ブラキシズム(Bruxism)

ブラキシズムとは、食事などで上下の歯が接触する以外に、昼夜問わず
無意識のうちに歯をかみ合わせてしまうことを指します。
例えば寝ている間に起こす歯ぎしりや、物事に集中している時に奥歯を
喰いしばってしまう行為がブラキシズムにあたります。
ブラキシズムは歯に通常とは異なる力をかけて、余計な負担を増やします。
その結果、歯肉に炎症が生じたり、歯がぐらぐら動くなど
歯周病と似たような症状を起こします(これを咬合性外傷といいます)。
また、歯にかかる力が強ければ、歯の一部が削れたり、欠けたり、
根が割れたりすることもあります。長期間無理な力がかかると歯の位置が
移動してかみ合わせが変わったり、顎の関節に負担がかかって顎関節症を
引き起こすこともあります。ブラキシズムがある患者さんでは、
詰めたものや冠・ブリッジが頻繁に壊れたり、入れ歯が折れてしまったり
します。横方向にかかる力をなるべく小さくするように冠の山の形を
工夫したりして歯にかかる力をコントロールしますが、かみ合わせる力は
生涯を通じて弱くなることはほとんど無く、いずれは多くの歯が
ダメージにより使えなくなって咬合崩壊を起こす可能性が非常に高いです。
かみ合わせの調整やナイトガード作製、自己暗示療法(患者さん自身が
無意識に歯をかみ合わせていることに気付くことでブラキシズムを予防する)
などで改善を図りますが、ストレスや性格、生活パターンなどが
ブラキシズムを引き起こす原因となっている場合も多く、根本的に
起きないようにするのは困難な場合がほとんどで、
定期検診と長期的な経過観察を必要とします。


[歯医者のホンネ〜小川歯科医院マガジン]発行日: 2008/8/11
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■ そのインプラント、ちょっと待って! ■

(3)インプラントは長持ちしますか?その2

インプラントを行うには、その患者さんのお口がこの先どのように
変化していくのかをよくよく見極める必要があります。
一度インプラントを入れてしまうと、簡単にはずす
(骨内のインプラント体の除去を含めて)ことが出来ないからです。
施術を行う歯科医師は、あらゆる検査とデータから、その患者さんの
「人生」を考え抜いた上でなおインプラントを選択する理由を示す
責任があります。そして一度施術をしたならば、その後の経過にも
全責任を負うべきです。
インプラントには高い予見性が必要です。
予見であることを患者さんに示さず、安全を保証する歯科医師は愚かです。

・・・なんてことを、あの小川とかいうインプラント反対派の歯医者は
言っていたけれども、10年どころか20年たっても私が入れた
奥歯のインプラントは調子がいいわ。
あのインプラントの先生の言いつけを守って、
年に2回は定期検診に行っているし。
多少根元のほうがすいてきて、時々出血もするけれど、
問題ないって先生も言っていたし。
今日は内科の病院によってから、また定期検診にいかなくちゃ。

歯「○○さん、全体的に歯ぐきに軽い炎症があるけれど、
  ちゃんと磨いていれば大丈夫ですからね」
患「いつも有難うございます先生。ところで先程
  病院で言われたんですけれど」
歯「?何でしょう」
患「私も年齢が年齢ですからこの前いろいろ検査を受けたんですよ。
  その結果が今日出ましてね、
  どうも血糖値が高くて糖尿病だって言われまして。
  骨粗しょう症の疑いもあるとかで
  また詳しい検査をしなきゃならないんですよ。
  一応先生にもお話しておかなきゃと思って・・」
歯「・・・・・・」
患「先生も私より年上なんですから、お体に気をつけてくださいよ。
  これからもよろしくお願いします」

さて、この歯科医師はこの時どのようなことを考えているのでしょうか。
よほど呑気か不勉強な歯科医師でない限り、
恐らくいろいろな「悪い結果」を想像したことでしょう。
でも、結局口にする言葉はいつもと一緒です。
それしか言いようがないのですから。
「・・○○さんも健康に気をつけて、よく歯みがきしてくださいね。
 それじゃ次回の定期検診は・・」

人間は、年をとるものです。
加齢という現象は自然なもので、
例え医療であっても抗うことは出来ません。
加えて、年齢を重ねれば全身的な疾患の発現率も高くなってくるのです。
インプラントを入れている人で特に問題となるのは、
感染症を起こしやすくなる糖尿病です。
インプラントは構造上炎症に弱く、歯周病を含め感染が起きた場合は
症状が重くなり悪化しやすいのです。
また、骨の代謝に直接関係してくる骨粗しょう症も
トラブルの原因となるでしょう。
他にも高血圧症になったり、心疾患や脳梗塞などが起きれば、
再手術が必要な場合の弊害となるでしょう。
インプラント医の多くは、どうしようもない問題が起きた場合は
手術してインプラントを取り除き、またインプラントを立てる手術を
すればいいと考えていて、患者さんにも手術時にそういう説明を
しているようですが、実際にトラブルが起きた時にその患者さんの
全身状態が手術できる状態にあるかどうかはわかりませんよね。
20年先の健康状態の予見なんて出来るはずがありません。
ひとりひとりの生活習慣だって異なりますし、
インプラントの手術前に人間ドックで全身調べさせる歯科医師は
恐らくいないでしょうから10年後すらわかりません。
予見性が必要なのに、推測の域でしか予測を立てることが出来ない、
それがインプラントというものです。
また、ブラッシングが十分出来なければ歯周病やインプラント周囲炎の
リスクも上がりますが、もしインプラントをした患者さんが何かの原因で
寝たきりになったり、脳性疾患の後遺症で半身不随になったり、
もしくは認知症となった場合に、十分な口腔ケアをすることが
(または受けることが)出来るのかという心配もあります。
寝たきりになったインプラント患者の世話をきちんと保証してくれる
歯科医師がはたしてどのくらいいるのでしょう。
いや、それよりまず、患者さんが健康を害した時にそのインプラント医は
まだ仕事をしているのかという問題もあります。
その歯科医院がまだやっているのか、
その主治医はまだ診察をしているのか、
後継ぎはいるのか・・・
患者さんがインプラントを施術される前に取り交わす契約書には、
継続的なケアを保証する内容が書かれているはずです。
しかし、その継続的なケアも、問題が起きた時の保証も、
そのインプラント医が健在な時にのみ有効です。
いなくなってしまえば、その責任を全うするものは誰もいません。
インプラントを入れた患者さんが、数十年後に全身的なケアが
必要になった時には、そのインプラントの責任を負うべき
歯科医師はいないかもしれないのです。
引継ぎされた歯科医師はあなたにこう説明するでしょう。
「インプラントの予後というものは、
 その人の全身状態や口腔ケアの状態によって
 大きく左右されますからね」
・・・物は言い様です。
結局、最終的にすべてのリスクを負わされるのは患者さん自身なのです。
でもそれに気が付いた時には、すべてが遅いのです。
長持ちすればいいというわけではない。
それが、インプラントというものなのです。

次回からは、インプラントの仕組みと術式についてお話ししていきます。

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★★★ 日々徒然 ★★★

北京オリンピックが始まりました。
たくさんのアスリート達を見ながら、ふと私は考えます。
「どんなトップアスリートだって
 いつまでも100mを9秒台で走れるわけじゃない」
昔はなんでもかめたのに、食べられたのに・・・
前のブリッジは具合が良かったのに・・・
古い入れ歯は痛くなかったのに・・・
ちょっと前まで水がしみたりしなかったのに・・・
人間は生き物です。日々その体は変化し続けます。
歯を失って食事が出来なくなった時、
「以前のようにかめるようになりたい」と思うのは当然でしょう。
しかし、全てが今まで通りになるとは限りません。
一度変わってしまったもの、失ってしまったものは、
「元通り」にはならないのです。
ですから私たち歯科医師は、
今ある歯・お口の状態を出来る限り保つように
予防歯科の啓蒙と定期検診の普及、保存療法の充実に努めています。
老化という自然な成り行きと、
人工的な歯科治療との調和が崩れないように、常に気を配っています。
しかし、インプラント医は違います。
「どんな普通の人でも100mを9秒台で走れるようになるよ」
彼等の言っている事はそういうことです。
「のに」をつぶやいて不満を抱いていた人たちには
魅力的に響く言葉なのかもしれません。
それがどれほど「不自然」なことか、省みる隙さえ与えぬほどに。
ヒトの体は、そんなに都合よく出来てはいません。
ヒトも自然の一部なのですから。


[歯医者のホンネ〜小川歯科医院マガジン]発行日: 2008/9/8
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★★★ 日々徒然 ★★★

現在放送中のテレビドラマ、
「コード・ブルー〜ドクター・ヘリ緊急救命〜」が面白くて
毎週見ています(今週で最終回ですが)。
劇中の手術シーンのリアリティと手術方法選択の合理性に
毎回感心しています。今まで放送されたテレビドラマの中でも、
医学的考証の綿密さは群を抜いていると思います。
とはいえ家内からは、専門用語が多すぎて、
手術中のシーンは私の解説がないとチンプンカンプンだという意見も・・

緊急救命時には、その必要性において優先される処置の順位があります。
治療の優先順位を決めることを「トリアージ(Triage)」といいます。
バイタルサインを判断基準にするもの(赤黄緑黒で色分けされる
トリアージタグはこれに基づく)、災害弱者(子ども、女性、
高齢者、障がい者)を優先する基準などがありますが、
いずれにせよ「生命は機能に優先し、機能は美容に優先する」という
鉄則は守らざるを得ないでしょう。
緊急救命のような切羽詰った場面では、
「全てを救う」「何も失わない」という理想論は
役に立たないことも間々あるということです。

翻って、生命の危機に瀕するほどの問題ではないのですが、
歯科の日常的な臨床においてもトリアージの決断を迫られる場面は
常にあります。その歯を残すか否か、その歯の神経を残すか否か、
その歯を削るか否か、そもそも治療が必要なのか否か・・?
理屈っぽいとは人からよく言われることですが(ゴメンナサイ)、
人様の身体を切り削る仕事をしている責任の大きさを思えば、
医師の裁量権を云々する以前にそれだけの知識と理論を
備えていなければなりません。
常に学び、考える姿勢を忘れないようにしたいと思います。
いや、言うは易し、行なうは・・

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■ そのインプラント、ちょっと待って! ■

(4)閑話休題・歯をなおすということを考える

そろそろ大局的な視点からではなく、インプラントというモノをめぐる
ミクロな視点での話に移りたいのですが、その前に一息入れて、
今回は何故これほどまでにインプラントをやりたがる歯医者が
増えてしまったのか、このインプラントブームの原因は何なのか、
その答えを一般的な歯科医師の思考パターンから探っていきたいと思います。

歯科治療の歴史は、簡潔に言えば「欠損と機能の回復」のみを
主眼としたものでした。曰く、むし歯で欠けたら金属や合成樹脂などの
人工物を詰めて「歯の見かけを元に戻す」、歯が抜けてなくなれば
ブリッジや入れ歯という人工物を入れて「歯がある状態に近い機能に
回復する」、そればかりを100年以上続けてきました。
今にして思えば噴飯ものですが、歯周病治療や予防歯科の概念が
広く浸透したのはつい最近のことで、もし30年前であれば
「歯槽膿漏(これもクラッシックな言い回しとなりました)は
歯ぐきの病気だからなおらない」と本気で言っている歯科医師は結構いたし、
全身疾患との関連やかみ合わせの状態など現在ではあたりまえに
考慮すべき事柄も全く気にせず、ただただ手の早さとアマルガム充填の
仕上がりばかりが名医の基準となっていたのも事実です。
まあ一日に50〜60人という、現在の2〜3倍の患者さんを
診察しなければいけなかった時代ですから、治療のきめ細かさについては
とても比較出来ないし、一概に当時の歯科医師を責めるわけにも
いきませんが・・(と父を見ていて思います)
つまり歯科医師は、「そこに歯があるかないか」だけに
治療の重きを置いてきた時代が非常に長いということなのです。
ある意味、職人芸というか、手技と感覚に頼る施術が主で、
逆に言うと医学的な理屈は二の次で「入れ歯が痛くない」
「むし歯がしみない」という感覚的な治療目標が満たされていれば、
医師自身も患者さんも共に満足であったのです。
実はこの傾向は現在も続いています。
歯科医師は「ものが噛める」という一点にのみ、
大きなエネルギーを注ぎます。食事が満足に出来なければ、
歯科医院にかかる意味はないでしょう。患者さんの側にしても、
痛くてものが噛めない時でなければ、
なかなか歯科医院にかかる気分にはならないでしょう。
医療としての目的という意味ならば、歯科の場合は間違いなく
「よく噛める」イコール健康、なのです。

歯につめる、歯にかぶせる、入れ歯を入れる。
これらの作業は限局的かつ即物的です。
そしてそれが歯科医師の仕事の中心です。こういう傾向を指して
「入れ歯屋」「かぶせ屋」と揶揄する方もいます。
歯科医師は「医師」ではない、ただの職人だという人もいます。
そういう話を耳にするたび、私は悔しかったり悲しかったりしますが、
一方で仕方がないとも思ってしまうのです。
それは、歯科医師が長年行ってきた治療の歴史と、
その体系の中で行われてきた歯科医学の教育と、
基礎医学を学習する機会があるにもかかわらず臨床に出ると
すっかり忘れてしまっている学生(そして将来は歯科医師)と・・
連綿と続いてきたその繰り返しに根差すものだからです。
医学と違って、歯学には厳密な意味でのエビデンス(論理的な根拠)が
ないと言われても、私には反論できません。意地悪のようですが、
何故歯周病にかかると歯がグラグラ動いてくるのかを、
かかりつけの歯医者さんに質問してみてください。
大抵の先生は、歯周病菌のせいで歯の骨が炎症を起こして減ってきて・・
と言うでしょう。では、何故細菌に感染すると炎症が起きて骨が減るのか、
その体の仕組みをさらにたずねてみてください。
恐らく、正しく理論的に答えられる歯科医師の先生は非常に少ないと
思います。歯周病になれば歯が動く、ひどく動けば抜いて入れ歯、
それだけ知っていれば一応歯科の治療は出来てしまうからです。
病理学に関する知識はたしかに学生時代に勉強しているはずなのに、
毎日の治療には関係ないと忘れてしまっている先生がほとんどなのです。
そういう「基本的な体のしくみ」すら忘れてしまっている歯科医師が、
安易にインプラントに手を出すのです。
そして理由も分からずトラブルを起こします。
何故そのインプラントが失敗したのか、それは昔習った知識でも
十分説明できるのに、すっかり忘れてしまっているから
その歯医者には分からない。
そして「たまたまうまくいかなかっただけ」と、さして省みもせずに
またインプラントを施術するのです。
・・まあ私の学生時代の成績だって決して褒められたものじゃ
ありませんけれど。
でもそういう歯科ズレした先生は、従来の歯科治療の流れでしか
インプラントを見ることができません。
「歯の無いところに歯が生えた、いいじゃないか」
「何でも噛めるならばそれでいいじゃないか」
「骨がなくてもインプラントは立つんだ、いいじゃないか!」
・・嗚呼。そういう先生は、今患者さんのお口の中で、
インプラントと歯周組織の間で何が起きているのかを、
考えることもしないでしょう。絶対に。
そしてその患者さんに言うのです、
「オッセオインテグレーションしました、
このインプラントは成功です」と。ゾッとします。

歯科医の意識としてはこんなところだと思います。
その他にももっと生々しい理由、収入が・・とか、材料商が・・とか、
いろいろありますが言わずもがな。
次回は、先程出た言葉「オッセオインテグレーション」について
ご説明します。「インプラントは骨にくっつくの?」です。

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小川歯科医院は、安直なインプラント治療に反対します。

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